「病は気から」という言葉をご存知だと思います。
多くの方は、その「気」を「気持ち」とか「気合い」とかの意味と思っているかもしれません。気の持ちようで病気に罹らないとか、気合いが入っていれば、病気が治るとか……。いわゆる精神論ですよね。
こころが病気の原因になることもあります。しかし、「病は気から」の「気」はこころではありません。ですから、こころの持ち方ですべての病気が治るとは限りません。
日本では「気」という言葉は大きく3通りの意味で使われています。
- 「空気」とか「気体」などのガス状のもの。
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「電気」とか「磁気」などのエネルギー的なもの。
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「気分」とか「気性」などの精神(こころ)を表すもの。
これが東洋医学の世界では「気」は、万物の基となるエネルギーの様な意味で使われます。実際、「病は気から」の「気」は東洋医学から来た言葉です。
東洋医学には「気血水」(き・けつ・すい)という言葉があり、人体を構成する3つの「基本的な要素」とされています。
この「気血水」が常に身体の中を巡ることで、心と身体の健康を支えられていると考えられます。つまり、「気血水」により、抵抗力や自然治癒力を保ちながら生命の活動が維持されることで、人間は生きていけるのです。
■「気」って何?
では、そもそも「気」とは何でしょうか。
東洋医学では「気」とは、生命活動の根幹をなすエネルギー源のこと。身体を正常に働かせるための代謝を司る生命エネルギーで、臓器の働きを保ったり、身体の表面を守ったりする役割もあります。
ちなみに「血」は、身体の中の血脈を巡り、栄養分や酸素を全身の細胞に運びます。また、関節の動きを助け、正常な精神や意識を維持する役割も担っています。
また、「水」は「津液」(しんえき)とも呼ばれ、身体の中に存在する「血」以外の体液(水分)です。食物からつくられる栄養素が変化して生成され、唾液や尿、関節液など多くの水分となります。これらの津液は、身体を潤す他、骨格や筋肉をつくり、老廃物を体外に排出しながら水分のバランスを保っています。
この「気血水」が身体の中でバランスよく体内を流れ、隅々まで巡ることにより、健康が維持されるわけです。逆に言えば、このバランスが崩れたり、調和が乱れることで身体が不調になります。
身体の「機能」を維持するのが「気」で、身体の「構造」を維持するのが「血・水」と言ってもいいでしょう。
■基本となる4つの「気」
さて、人体には基本となる4つの「気」があるとされています。「宗気」(そうき)、「営気」(えいき)、「衛気」(えき)、「元気」(げんき)です。
「宗気」は、胸の中で働く「気」で、主に呼吸を行なったり、心拍運動により「血」を身体中に巡らせます。
「営気」は、栄養分の多い「気」で、津液と共に血を生成し、経絡を通じて、身体中に栄養作用を供給します。
「衛気」は、身体の外からやって来る病気やストレス、アレルゲンなどの「邪気」の侵入を阻んで、身体に入った悪いものを追い出す「気」です。防御作用や免疫機能を担う他に、身体を温めたり、発汗などの体温調節も司ります。
「元気」は、良く聞く言葉で、体力とか健康状態の意味で使われていますが、東洋医学では少し違います。元気とは生命活動を営むための原動力となる「気」のことです。この元気が全身を巡って成長や発育を促し、臓腑の働きを促進します。
■「気」が乱れることで起こる身体の不調とは?
東洋医学では「気血水」の乱れにより、病気など身体の不調が起こると言いましたが、特に、身体を巡っている4つの「気」が乱れると「気病」という身体の不調が起こります。
「気虚」(ききょ)、「気滞」(きたい)、「気逆」(きぎゃく)の3つが主です。
さらに、「血」が乱れると「血虚」(けっきょ)、「瘀血」(おけつ)。「水」が乱れると「水滞」(すいたい)となります。
これら、「気虚」「気滞」「気逆」「血虚」「瘀血」「水滞」は、身体のタイプと言っても良く、自分の体調を知る大きな診断ポイントともなっています。また改めて、これら自分の身体のタイプを知り、それぞれのタイプごとの健康法をお伝えしたいと思います。
【気虚】
「気」が乱れることで起きる不調の「気虚」とは、「気」が足りていない状態のことです。抵抗力が弱まり、疲れや倦怠感を覚え、息切れや脈が弱くなるなどの症状が出ることがあります。体力が弱まっているので、免疫力が下がり、病気に罹りやすくなります。
【気滞】
「気滞」は、文字通り「気」の巡りが滞っている状態のこと。「気鬱」(きうつ)とも言います。何となく鬱々としたり、不安になったりして、眠りも浅くなり、胸や喉につかえを感じることもあります。
【気逆】
「気逆」は、体内の「気」の循環が乱れているために、「気」が逆流し、上昇している状態のことです。「気」が鎮まった、落ち着いた状態の「逆」になってしまい、無駄に興奮してしまったり、突然の頭痛やめまい、動悸が起こったり、ゲップや吐き気などの症状が出ることもあります。更年期障害とよく似た症状と言えるかもしれません。
■「病は気から」というのは真実です。
このように、人間の身体は「気」からつくられ、「気」によって維持されています。「気」が正しく巡っている状態が「正気」(せいき)であり、即ち健康な状態です。
冒頭で「病は気から」と言いましたが、この「気」は「気合い」や「気持ち」ではなく、まさに東洋医学で言うところの「気」そのもの。つまり、生命の基となるエネルギーの「気」なのです。
気が病んでしまった状態が病気です。ですから、「病は気から」というのは、本当のことと言ってもいいのです。身体を巡る「気」が乱れると、「気虚」「気滞」「気逆」に陥り、病気を招いてしまうわけですから……。
■漢方のお茶もオススメです。
したがって、皆さんが健康を維持するためには、気の乱れを防ぐことが重要です。これは西洋医学の観点ではなかなか難しいかもしれません。そもそも診断により「病名」が付けられてから、治療がはじまるのが西洋医学です。
そこで、お勧めは漢方による生薬です。生薬は「気血水」のバランスを整えることが重要な要素となっていますので、病気はもちろん、病気とまでは言えない「未病」にも有効です。
多くの方々が感じている「気虚」「気滞」「気逆」などの状態は、病気を招く可能性が高くなっています。
ですから、日常から漢方薬や「漢方茶」を飲むことで、病気になる前に体調が改善できる可能性が高いと考えます。
特に「漢方茶」は、身体を温めることにもつながりますので、免疫力の向上にも役立つでしょう。
ぜひ、漢方薬や「漢方茶」で「気」の巡りを整え、日々の健康を維持していただきたいと思います。
「気」は生命活動の根幹をなすエネルギー源である。
「気」には基本となる「宗気」「営気」「衛気」「元気」の4つがある。
「気」が乱れると、「気虚」「気滞」「気逆」など身体の不調が起こる。
そのような意味で「病は気から」というのは真実です。
「気」を整えるには、漢方茶もお勧めです。
「統合医療のスペシャリスト 医学博士・川嶋朗先生の「東洋医学」コラム」シリーズ
川嶋朗先生
東京有明医療大学保健医療学部
鍼灸学科教授
広島大学医学部客員教授
一般財団法人東洋医学研究所附属クリニック自然医療部門担当
一財東洋医学研究所附属クリニック自然医療部門担当。
自然治癒力を重視し、近代西洋医学と補完・代替医療を統合した医療の実践を日本の医科大学で初めて立ち上げ、現在も日本の医療系の大学の教育・臨床・研究の現場に立っている。
「よりよく生きる」「悔いのない、満足のいく人生を送る」ための心得として、「自分の理想的な死とは何か」を考えるQOD(クオリティ・オブ・デス=死の質)の提唱者。